テレワークと健康経営
テレワークの導入は、新型コロナウイルス感染症の流行が大きなきっかけとなり、多くの企業がこの働き方を採用し始めました。 現在では、多様な働き方の一つとして広く認識され、多くの人々の仕事の仕方に変革をもたらしました。 しかし、テレワークの普及により、運動不足が招く健康上のリスクが懸念されています。この点は、健康経営を推進する上で企業が特に留意すべき課題です。 この記事では、テレワークが広がった背景、そのメリットとデメリット、そしてテレワークによって生じる可能性のある従業員の健康問題に焦点を当てます。また、企業
目次
1.テレワークとは
2.テレワーク普及の背景
3.テレワークのメリット ~企業~
- 3-1.コストの削減
- 3-2.人材の確保
- 3-3.従業員満足度と生産性の向上
4.テレワークのメリット ~従業員~
- 4-1.柔軟なワークライフバランス
- 4-2.通勤ストレスの軽減
- 4-3.働き方の自由度が増す
5.テレワークのデメリット
- 5-1.従業員が孤独を感じやすい
- 5-2.管理・監督の難しさ
- 5-3.自己管理の個人差
- 5-4.セキュリティのリスク
6.テレワークと健康課題の変化
- 6-1.生活習慣病リスクの増加
- 6-2.メンタルヘルスへの悪影響
7.テレワークと運動不足の解消法
- 7-1.30分に1回は立ち上がる
- 7-2.適度なストレッチ
- 7-3.ウォーキングやランニング
- 7-4.オンラインによる運動プログラム
8.テレワークとコミュニケーションの改善
1.テレワークとは
テレワークは、「Tel」(遠隔の)と「Work」(労働)という言葉を組み合わせた造語で、遠隔地での労働を指します。厚生労働省は、テレワークは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を駆使して、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」としています。
2.テレワーク普及の背景
1991年に日本テレワーク協会が設立された際、一部の大企業がサテライトオフィスの形態を取り入れ始めたものの、対面でのやり取りを重んじる文化が根強かったため、テレワークの広がりには限界がありました。
政府は2016年、労働力不足に対応する一環として、2020年までにテレワークを実施する企業数を2012年度の3倍に増やす目標を設けました。また、全労働者のうち週に1日以上を完全に自宅で仕事をする雇用形態のテレワーカーを10%以上にすることを目指し、テレワーク推進に力を入れてきました。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う外出制限措置が、数多くの企業にテレワークへのシフトを促す重要な契機となりました。これにより、一時的な措置から始まったテレワークが、徐々に恒久的な働き方の選択肢として定着し始めています。この変化を後押ししたのは、デジタル技術の急速な進歩であり、これにより遠隔地からでも業務を効率良く遂行できるようになりました。
東京都の公開データによれば、コロナ禍には、従業員数30人以上の都内の企業におけるテレワークの実施率が一時65%に達しました。コロナ禍が一段落した後の令和6年1月時点で、その実施率は41.6%にまで下がりましたが、コロナ前の24.0%と比較すると、テレワークがより広く普及し、根付いていることが伺えます。
3.テレワークのメリット ~企業~
テレワークは、従業員と企業双方にとって多くの利点を提供します。まずは企業にとってのメリットからご紹介します。
3-1.コストの削減
テレワークをする従業員が増えることで、オフィススペースの需要が減り、小規模なオフィスに移転することで、家賃や光熱費などの運営コストを削減できます。オフィスに必要なデスクやOA機器といった備品にかかるコストもカットできます。また、テレワークに適したITインフラへの投資は、長期的に見て業務効率化につながります。
3-2.人材の確保
勤務地に縛られることなく、様々な地域や背景を持つ才能にアクセスできるようになることは、テレワークの大きな利点の一つです。テレワークを通じて多様な才能を受け入れることは、企業にとって新しい視点やアイディアをもたらし、イノベーションの源泉となります。
また、実力を持ちながらも、子育てや介護などの個人的な責任によってキャリアを一時停止せざるを得なかった人々は少なくありません。テレワークの導入により、これらの人々が自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働けるようになり、再び職業生活に積極的に参加する道が開かれます。
3-3.従業員満足度と生産性の向上
従業員が個々に最適な環境で作業を進めることができるテレワークは、作業の効率性を高めることが知られています。これにより、個人だけでなく組織全体の生産性の向上が見込まれ、多数の研究でその効果が報告されています。
加えて、テレワークによって通勤時間の削減などから、仕事以外のプライベートな時間が豊かになることで、従業員の満足度が上がり、職場への熱意やエンゲージメントが増す効果も期待できます。
4.テレワークのメリット ~従業員~
続いて、従業員にとってのメリットを紹介します。
4-1.柔軟なワークライフバランス
テレワークによって、家庭やプライベートな時間と仕事のバランスをとりやすくなります。通勤時間が削減されることで、その分自己啓発や家事、趣味、育児に充てる時間を確保でき、ワーク・ライフ・バランスを実現します。
4-2.通勤ストレスの軽減
長時間の通勤が不要になり、満員電車に乗る負担もなくなります。日々のストレスが軽減されます。
4-3.働き方の自由度が増す
勤務地に縛られずに働けるため、好きな場所や快適な環境で仕事ができます。
5.テレワークのデメリット
テレワークには多くのメリットがありますが、同時に従業員と企業の両方にとって次のようなデメリットも存在します。
5-1.従業員が孤独を感じやすい
オフィスでのささいな雑談やチーム全体の連帯感は、仕事のモチベーションを高める重要な要素です。しかし、テレワークでは同じ物理的な空間で働く仲間がいないため、孤独を感じることがあり、これが生産性に影響を与えることがあります。
5-2.管理・監督の難しさ
リモートワークでは従業員の業務遂行を監視することが難しくなります。これにより、従業員の業務効率や成果に対する管理が難しくなる場合があります。
5-3.自己管理の個人差
テレワークに移行すると、従業員のスケジュール管理やタスク管理の質には個人差が現れることがあります。自宅などの自由な環境での作業では、自己管理が求められますが、その点において、自律的に行動する人と、気楽になりがちで計画性を欠く人とが存在します。そのため、従業員の管理状況は個々の性格や働き方によって大きく異なる可能性があります。
5-4.セキュリティのリスク
会社の重要なデータが詰まったパソコンや書類をオフィス外に持ち出すテレワークは、盗難や紛失といったリスクと隣り合わせです。 自宅や公共の場所からのアクセスで業務を行う場合、セキュリティリスクが増大しますので、テレワークを実施する前に、データ漏洩やサイバー攻撃など、 総合的なセキュリティ対策をしておくことが肝心です。
6.テレワークと健康課題の変化
テレワークの普及に伴い、働き方や生活様式が大きく変化しました。これにより、健康に関する課題も変化しています。経営的な視点で健康経営を捉える際、企業はこれらの健康課題を把握し、適切な対策を講じる必要があります。
テレワークと健康課題の変化についていくつかのポイントを解説します。
6-1.生活習慣病リスクの増加
健康機器メーカーと筑波大学大学院が都内の大手企業の社員約100人を対象に行った研究によれば、新型コロナウイルス感染症の流行によるテレワーク導入後、1日の歩数が29%も減少したことが明らかになりました。この変化により、座っている時間が増え、肥満傾向の人が増加しています。
肥満は糖尿病や高血圧などの生活習慣病のリスクを増大させるため、意識的に身体活動を増やすことが不可欠です。
6-2.メンタルヘルスへの悪影響
テレワークの導入により、従業員のメンタルヘルスにも様々な影響が生じています。一部の従業員はストレスが軽減したと感じている一方で、慣れない環境や一人で仕事をすることへの不安感や孤独感を抱えているという従業員も少なくありません。
また、従業員同士が同じ場所にいないため、コミュニケーションが不足し、上司や同僚が心身の変調に気づきにくいということも大きな問題になっています。
従業員のメンタルヘルスを保つためには、適切なサポートやコミュニケーションの促進が重要です。
7.テレワークと運動不足の解消法
テレワークに伴う健康課題の多くは、運動不足によるものです。従業員が健康を維持しストレスを発散するために、以下のような簡単な運動を積極的に行うよう促すことが重要です。
7-1.30分に1回は立ち上がる
京都府立医科大学大学院医学研究科は、6万人超の日本人をおよそ8年間追跡したデータから、座っている時間が長いほど死亡リスクが上がるという研究結果を発表しています。
座りすぎが健康に悪影響を及ぼす主な原因は、座りすぎで下半身の血流が悪化し、代謝機能が衰えることにあるといわれています。30分に1度立つことで、血流を意識的に循環させるようにしましょう。
7-2.適度なストレッチ
長時間同じ姿勢でいることによる肩こりや腰痛、姿勢の悪化も問題となります。前かがみや猫背にならないよう注意し、肩を回したり、腰を伸ばしたりといったストレッチを適度に行うことが重要です。これによって、筋肉の疲労を緩和し、姿勢を正常に保つことができます。
7-3.ウォーキングやランニング
通勤時間が削減された分、朝や夕方の空き時間は有酸素運動に取り組む絶好の機会となります。運動に慣れていない方は、けがを防ぐためにも、軽いウォーキングから始めて少しずつ体を慣らしていくことが大切です。
このような簡単な運動習慣を身につけることが健康への第一歩です。
7-4.オンラインによる運動プログラム
企業は、従業員の健康を積極的にサポートするために、自己管理だけでなく、オンラインを活用した運動プログラムの提供など、積極的な働きかけを行うことが重要です。昼休みなどには、ストレッチや筋トレなどの参加を呼びかけることで、従業員同士のコミュニケーションを活性化させることも期待できます。
8.テレワークとコミュニケーションの改善
テレワークの増加により、精神的な健康に影響を及ぼす問題が浮き彫りになっています。特に、直接の対面コミュニケーションの不足が主な要因とされます。対面でのコミュニケーションが減ることで、従業員は孤独や不安を感じやすくなります。また、上司が直接様子を見ることができないため、従業員の精神状態を把握することが難しく、問題が複雑化しやすくなります。
こうした課題に対処するためには、適切なコミュニケーションツールの導入が重要です。例えば、チャットツールなどのコミュニケーションツールを活用し、従業員同士が気軽にやりとりできる環境を整えることが有効です。また、意識的に雑談を促すなどして、従業員同士のコミュニケーションを改善する取り組みが必要です。